位相差顕微鏡
位相差顕微鏡とは、
光学顕微鏡の一種で、
口腔内で活動する細菌を確認できる
特殊な顕微鏡のことです。
その特殊性とは、光線の位相差をコントラストに変換して観察できるところにあり、標本を無染色・非侵襲的に観察することができるのです。
この検査を行うことで、歯周病の原因菌が特定でき、それにより歯周病の治療計画がたてられるようになります。
位相差顕微鏡検査では、まずお口の中に残っている歯垢をほんの少し採取します。
それをプレパラートに乗せてセットします。口腔内に存在する細菌の種類は500~700種類といわれています。
ですので歯垢1mgあたりの細菌数は1億個ともいわれており、歯垢は細菌の塊なのです。しかし、口腔内に存在する細菌すべてが問題ではありません。
正常菌叢(せいじょうきんそう)と言われれる善玉細菌は健康な体に住み着く細菌です。
これらの正常菌叢は、外部から絶え間なく侵入してくる病原微生物からの攻撃を防御しているのです。
簡単に説明すると細菌には大小の違いがありますが、点状の球菌、棒状の桿菌、糸巻状のらせん菌、長く大きなひも状のカンジダ、虫のように動き回るアメーバやトリコモナス、赤血球や白血球、リンパ球、上皮が剥がれ落ちたものなどが観察され、それぞれの量や密度、活動状況が確認できます。
その一方で形態がわかるだけで実際になんの菌であるかは確定できないものなのです。
細菌の量や密度が低く、菌の種類も少なく非常に静かな雰囲気のある像が正常菌叢です。
それに対し、悪い菌叢はいろいろな種類の菌が密集して菌が激しく動き回り、濁流のような像となります。
当院では、口腔内の細菌叢の存在や活動状況をリアルタイムで観察できる、イポナコロジー社製の位相差顕微鏡を用いて3200倍の高倍率で細菌叢を観察でき、さらに静止画や動画を記録できます。
ですので細菌が存在していること自体は、決して悪いこととはいえません。問題は細菌の種類と量なのです。
腸内細菌にも、各種悪玉菌と善玉菌がいるように、口腔内も同じであり、かつ歯周病菌やむし歯菌をゼロにすることはできません。
そこで、コントロールして良い菌と悪い菌のバランスをとってあげることが大切なのです。
それでは、位相差顕微鏡で観察されるさまざまな菌について性質や特徴について解説いたしましょう。
トレポネーマ
らせん状の菌で、顕微鏡で容易に観察されやすい歯周病菌です。一番わかりやすく、この菌が多く存在して元気に活動しているようなら歯周病対策をしっかり行う有力な指標となります。
グラム陰性嫌気性菌で、運動性が高くらせん状をしており、スピロヘータ属にはいります。
免疫反応を制御して炎症の慢性化に関与する、たいへん厄介な細菌です。
難治性の歯周病患者で、歯肉から排膿しているところに必ず存在していて、人の腸管や泌尿・生殖器表面等全身から検出されます。
運動性桿菌
棒状の菌で菌種は特定しずらいのですが、歯周病が進行しているところに密集して観察されます
カンジダ
細菌とは異なる真菌です。運動性は低いが、大小さまざまで形態を変えます。
球菌と相性が良く共生して集まる傾向にあり、急性の歯周炎や難治性の歯周炎で多く観察されます。
アメーバ
直径が10~30ミクロンの大きさアメーバ状の動きをするのが特徴、白血球や細菌を貪食する
トリコモナス
10ミクロン程度の大きさで、歯周病が進行した患者の口腔内に観察される。接触感染するのが特徴
生体由来細胞
滑落上皮・赤血球・白血球・リンパ球等です
主に以上の種類の菌や微生物、細胞が位相差顕微鏡で観察されます。
ただ菌については、前述のとおり位相差顕微鏡で確定できるものはありません。
細菌等はあまりにも種類が多く、形が変わるものも多いため同定が難しいのです。
位相差顕微鏡で判断できるものは菌の形態や運動性、量となります。
その顕微鏡像により正常菌叢、悪い菌叢、非常に悪い菌叢の判定が可能です。
希望する患者様には、歯垢を採取して位相差顕微鏡で口腔内細菌をお見せしています。
当院では、位相差顕微鏡とモニターを繋いでいるので、モニターに細菌が動いている様子が、リアルタイムで表示され、患者様にも見ていただいています。リアルタイムで動く細菌に驚く患者様とても多いです。
ご自分の口腔内の状態をまず知る事が、お口の健康への第一歩です。まずは歯肉の検査やむし歯の検査に加えて細菌の検査もしてみませんか?
実際に自分の口の中に存在している細菌を見ることで、口腔内への意識が高まり、歯磨きの時間が長くなったり、定期検診でのクリーニングに積極的になったという声も多くいただきます。
さらには、顕微鏡像で悪い菌叢が疑われたら、菌を確定するために更なる細菌検査が必要となる場合があります。リアルタイムPCR検査と呼ばれるものです。
簡単に説明すると、PCR検査とは固有の遺伝子(DNA)を増幅させることで細菌を特定します。患者様の歯周ポケットより歯垢を採取して検体を送り、そこにある検査設備にてより正確に菌の種類とその量を調べていきます。
そこで調べることが可能な細菌は以下全部で6種類あります。
それぞれ特徴を解説していきましょう。
1.Treponema denticola
(トレポネーマ デンティコーラ)=T.d菌
顕微鏡で観察できる菌として前述したので説明は省きます
2.Porphyromonas gingivalis
(ポルフィロモナス ジンジバリス)=P.g菌
タンパク分解酵素があり、歯周病の発症と進行の原因になっている歯周病菌の中でも最大の悪玉菌で進行した歯周病の歯周ポケットから検出されます。グラム陰性、嫌気性、非運動性短桿菌、赤血球共凝集因子であり内毒素で歯槽骨を破壊吸収します。
また硫化水素の悪臭を放ち、アテローム性動脈硬化症や糖尿病や早産、アルツハイマー型認知症等の全身性疾患の原因となります
さらにPg菌には、タイプが6種類あり「タイプⅡ」と呼ばれている種類は、凶暴です。
この菌は、なにせ凶暴で、黒色色素の産生と赤血球とくっつくことで歯肉が赤黒くなってしまいます。
PCR検査ではこのPg菌のタイプⅡを独自に検出することもできるのです。
3.Tannerella forsythia
(タンネレラ フォーサイシア)=T.f菌
グラム陰性、嫌気性非運動性桿菌歯 周病の進行期、活動部位に多い
P.g菌とともに存在すると歯周炎は悪化する
難治性歯周炎の指標となる重要な菌種である
④ Aggregatibacter actinomycetemcomitans
(アグリゲイティバクター アクチノミセテムコミタンス)=A.a菌
グラム陰性、嫌気性の非運動性短桿菌で侵襲性歯周炎、慢性歯周炎の原因菌
白血球毒素、細胞膨張化毒素を持つ
内毒素(LPS)により歯槽骨を吸収し、免疫応答を抑制する
若年性歯周炎や侵襲性歯周炎など特殊な歯周炎の原因菌として考えられています。しかし、菌が存在しても問題がない場合があり、感染者の反応によって病原性が異なるようです
4.Prevotella intermedia
(プレポテラ インターメディア)P.i菌
嫌気性グラム陰性桿菌、女性ホルモンにより発育が促進されるため、妊娠性歯肉炎、月経周期関連歯肉炎、思春期性歯肉炎で多く見られる。こちらも黒色色素を産生します
5.Fusobacterium nucleatum(フソバクテリウム ヌクレアタム)=F.n菌
紡錘状で非運動性の細長い桿菌で、グラム陰性嫌気性菌
20µm~100µmの大きさで、菌としては非常に大きく、紡錘菌とも言われるギ酸、乳酸、酪酸を産生して、悪臭を伴い赤血球と結びつく。
デンタルバイオフィルム形成の中心的役割を担う、さらに最近では大腸がんに関係しているのではという報告もあります。
以上これら6種の菌の存在をPCR検査で数値として確認することができます。
歯周病の検査はここまで進歩しているのです。